ここ2~3カ月の間に朝井リョウさんの書かれた小説&エッセイをを3冊ほど読んだんですが、どれもそれぞれ面白かったので、今回はそのレビュー・感想をざっくりと書きたいなと思います。
朝井リョウさんの本に持った興味をきっかけ
そもそも朝井リョウさんという作家に興味を持ったのは、朝井さんがパーソナリティーとして出演されている『朝井リョウ、加藤千恵のオールナイトニッポン0(ZERO)』というラジオ番組をRadikoで聴き始めたのが、きっかけでした。
ラジオのトークが面白いくて何度も聴いているうちに、『こんな面白いトークをする人は一体どんな小説を書いているのかな』と思って、自然と興味を持ち始めました。
あと、朝井さんが岐阜県出身ということで、自分と同じ同郷の20代の若い作家さんが活躍されているというのも、親近感を持ったというのも若干あります。
そんな矢先に、アメトーークの読書芸人でも紹介されていた、直木賞受賞作品の『何者』が本屋さんに行ったら置いてあったので、これは読むしかないな、と思って買ったのがきっかけです。
何者/朝井 リョウ
で、何者(なにもの)です。
この作品は読み終えた時に、なんて痛快なんだ!って思いました。
話のあらすじとしては就職活動を控えた大学3年生の主人公を含めた男女の友だち5人が大学3年生冬あたりから徐々に就職活動をしていく日々が描かれていきます。
このほとんどの大学生が体験するであろう就職活動というありきたりな舞台において、主人公を含めた大学生達の実生活での行動、SNSアカウント上での発言、そしてSNSには発信しない本当の自分の気持ち・感情などがそれぞれ汲み取れて、とても面白かったです。
自分がなんとなく漠然と抱いていたSNSユーザ・匿名アカウントユーザの実態かもしれないものに深く切り込んでいてくれていて、読んでいて本当に痛快でした。
特にストーリーの佳境で、理香が主人公の拓人を徹底追及していくシーンは、全てが裏返されたようで、鳥肌ものでした。
この作品で朝井さんが一番強く言いたかった事は、『傍観者にならずに主体的に行動する人間になろうよ』って事なのかなと。
自分は何の行動もしないで、他の誰かが必死に真面目に取り組んでいる事・続けている事を、第三者の傍観者の立場で、馬鹿にしたり、揚げ足とったり、悪口言ったり、みたいな事って、一番簡単だけど、それをしたところでノーアクションの自分の位置は何も変わらないよと。進歩しないよと。
現実でも、ヤフー記事のコメントやら某匿名サイトの掲示板とかには、自分がそれこそ”何者”なのかを明かさない匿名アカウントで、ほぼ自分の発言の責任を取る必要がない無法地帯なことをいいことに、好き勝手に誰かの揚げ足どりやら批判コメント・見るに堪えない中傷コメントが散見されたりしますが、そういうコメントを書いている人は納得できていない現実からの現実逃避かその憂さ晴らしになるのかもしれませんけど、現実での自分の立場・状況は何一つ変わりませんよ、みたいな事で。
自分自身が進んでいくためには、人のことあーだこーだ言ってないで、自分自身がアクション起こそうよと。
そういう事が言いたいのかなって思いました。
ネット・SNSを普通に使いこなす朝井さんのような若い世代の方だからこそ、書けた作品なのかなって思いました。
でも、ラジオ聴いていると、朝井さんはかなりアナログ人間でデジタル音痴っぽいんですけどもね(笑)
武道館/朝井 リョウ
ハロプロ好き・女子アイドル好きの朝井さんが書いた渾身の一作。朝井さんの最新作品です(多分)。
まず、表紙のカバーのデザインが幻想でセンス良いですな。
つんく♂さんの帯に『なんたる野望。なんたるマニアック。なんたる妄想力。』とありますが、自分もこの作品を読んでまさにそんな印象でした。
アイドルの現場にいるマネージャーが暴露本として書いたんじゃないか、みたいな(笑)
話の舞台は、歌う事と踊る事が大好きな女子高生の主人公の”愛子”がアイドルグループ”NEXT YOU”の一期生として加入して、学業と並立しながら仕事(アイドル活動)を地道に続けていく中で、徐々に”NEXT YOU”の人気・知名度が高まっていって、いよいよ”武道館”公演が決まった中で、あれやこれが起こってしまい・・・。そして10数年後でのもう一度武道館ライブ実現へと。。
現実でも、AKB48、ももいろクローバーZ、乃木坂46、モーニング娘。などなど、今やアイドル全盛の時代ですけれども、ファン目線ではなくて、アイドル当人側からの視点で見ると、この作品の主人公”愛子”のような気持ち・目線でアイドル活動を送っている子達も結構いたりするんじゃないかなって、ちょっと思っちゃいましたね。
”愛子”が話した言葉で、心に刺さった印象的なセリフがありました。
『歌が好きなことも、ダンスが好きなこともずっとずっと、変わらないんです。だけど、大地(同級生の幼馴染の男の子の名前)を好きなことだけが、あるときから急に、ダメなことになってたんです。』
ただの歌とダンスと幼馴染の男子が好きだった女の子が、アイドルグループに入った時から、何故かその一つの恋愛だけが禁止されてしまう現実。
恋愛禁止されてしまう理由は、『アイドルは夢を売る商売だから』という分かるようで分からないな、アイドルが最初に生まれた時代に決まっただけかもしれないような、理由は分からないけど昔からあるルールだからというだけで有効になっているかもしれない、自分とは全く関係ないところで決まった暗黙のルールによるものだとしたら。
自分は恋愛の部分も含めて等身大の自分のはずなのに、そこだけはひた隠すように事務所にもファンにも求められる葛藤や苦悩。
結局、”愛子”も同じくNEXT YOUの主要メンバーの”碧”も、事務所やファンの求めるそれらの暗黙のルールに従わずに、等身大の自分自身で生きていくための決断をするわけですけども。なんかこの作品を読んで、アイドルの人達って本当大変なんだろうなってつくづく思いましたね。
まぁ暗黙のルールは世間の常識とも同義語ですけども。
現実でも、ジャニーズや女性アイドルグループのメンバーが、ちょっと恋愛話がスクープされると、一部のファン(?)が何やらヒステリックに騒ぎ立てて、炎上やら殺害予告やらと不穏なことになったりしてますけど、いつも何でそこまでする?って感じなわけで。
期待を裏切られたって、勝手に期待して、熱愛発覚で勝手に裏切られたとか言われても知らんがなみたいな(笑)
アイドルといっても人間だから恋愛もするし、いつかは結婚もするのは分かっているのに、いつも自分が2股かけられて振られたかのごとくヒステリックにお怒りの方々は謎を通り超して、もはやサスペンスですね(笑)
例えば、それが別の職業の人(アーティストや俳優・女優)とかなら問題にならないような事でも、アイドルが同じ事をすると、まるで重大犯罪を犯したような話を拡大解釈して騒ぎ立てる人たちはファンとは言えない気がしますけどもね。本当のファンなら応援しているアイドルが幸せならそれを喜べるはずでしょうし。
そういえば、”碧”がNEXT YOUを脱退する時に愛子に放った一言がかなり印象的でした。
『私、今から菅野さん(彼氏)に会いに行くことが、ずっとずっとあとに自分の人生を振り返ったとき、正しかった選択になってる自信がある』
『正しかった選択にする自信がある』
『正しかった選択にする自信がある』。
しびれる良い言葉ですな。結果、碧はそれを後に自分自身のその後のキャリアで証明してくれますけども。
愛子のほう誰と結婚したかは触れていなかったけど、結局、大地と結婚したのかな。
大地とだったなら、愛子にとっても正しかった選択だったなぁとハッピーエンドで安堵して読み終えれたので、そこは最後それとなく触れてほしかったかな。
そこだけ若干もやもやしました。愛子のアナザーストーリーでも別の作品の短編か何かで書いてほしいぐらい。。
でも、小説を読んでいて、こういう素敵だなって言葉を見つけられたときや、自分の頭でもやもやしている事象が明確に言語されていくような文章を見つけられたとき、この小説よんでよかったなぁって思える瞬間でもあります。それも小説の醍醐味の1つなのかなと。
そういった素敵な言葉をたくさんこの”武道館”には見つけられました。
この作品を読んで、本当の等身大の自分を、勝手に周りが作り上げる理想像の枠の中に無理やりねじ込んで生きていくという現在のアイドルを疑似体験したような気がします。
まぁ数年たてば、このアイドルの恋愛禁止というルールもなくなって、自由恋愛になっていても不思議ではないですけどもね。
”恋愛禁止”が今の常識だとしても、『常識は今現在においてたくさんの人が正しいと考えているという考え』というだけで、それが正しいわけではないわけで。
ひょっとしたら10年後にはフォークは右手、ナイフは左手になっているかもしれないですしね。
『今の常識と言われるものを正しいと信じこまないで、自分自身の直観・感覚を信じて進もうよ』、って事も朝井さんはこの作品を通じて暗に言いたかった事なのかもしれません。
時をかけるゆとり /朝井 リョウ
朝井さんが岐阜の高校を卒業して早稲田大学に入学し上京、主に大学時代の日常のヒトコマを独自の視点でおもしろおかしく書き綴る初エッセイ集です。
いやいや、これはめちゃくちゃおもしろいエッセイでしたね。声だして笑っちゃった話も多々ありました。
例えば、地獄の100キロハイクで3日間歩き続けてゴールした時の文章がこれです↓
本当に、本当に、本当に、人生諦めなければ何だってできるのだ。
だけど明日は何もできない。
世界で一番きれいな二律背反が誕生した瞬間だった。
また朝井さんが就職活動の集団面接で一緒に受けた隣の男子学生がスーツに間違ってスニーカーを履いてきているのを見つけてしまった時のやりとりがこれです↓
「それでは、自分の欠点を三つ、お願いします。それではこちらの方から」・・・
隣ののっぺり男子の足元。そこにはカラフルなスニーカーがあった。・・・
なんとまぁ・・・と思っていたとき、そののっぺり男子が「ハイ」と返事をして話しだした。
「私の欠点は、おっちょこちょいなところです」
知ってる!!
すぐ隣で合点した私は思わずブッと噴き出してしまい、面接官に少々不振がられた。
全編通してそうなんですが、淡々と繰り出す文章が本当におもしろいです。
きっと朝井さんは、調子乗りで意外にアクティブ、でもおっちょこちょいで自意識過剰&自虐体質、というかなりこじらせた人なんでしょうね(笑)
小説のシリアスな雰囲気とはまるで違うので、肩の力を抜いてリラックスして読める超面白いエッセイです。かなりおすすめですね。
是非、エッセイ第2弾も出してほしいなって思いました。